AIリテラシーとは?意味・仕組みとEU AI法第4条(2026年11月時点)
AIリテラシー
AI literacy
AIリテラシーとは、AI の仕組みと、使うときの機会とリスクを理解し、仕事で AI を適切に使うための知識とスキルのこと。EU AI法は第4条で、社員などに育てる措置を求めている。
要するに
- EU AI法は第3条56号で定義し、第4条で提供者と導入者に育てる措置を求める
- 欧州委員会は研修の形式を決めておらず、修了証も要らず、社内の記録でよいとする
- 日本では経産省と IPA のDXリテラシー標準が、全ビジネスパーソンの学びの指針
最終確認

AI の提供元が研修を掲げた出来事
目次8
ひとことで言うと
AIリテラシーは、AI の仕組みと、使うときの機会とリスクを理解し、仕事で AI を適切に使うための知識とスキルのことだ。EU AI法は第3条56号で「AI literacy」を定義している。提供者、導入者、影響を受ける人が、情報にもとづいて AI システムを使い、AI の機会とリスク、起こしうる害に気づけるようにするスキル、知識、理解だ。
身近な例は、社員が生成AIのチャットで広告の文案を作ったり、文章を翻訳したりする場面だ。欧州委員会の Q&A は、この使い方でも第4条の AI リテラシーの対象になるとし、社員はハルシネーションのような特有のリスクを知らされるべきだと答えている。
このページは EU AI法の条文、欧州委員会の Q&A、経済産業省と IPA の「デジタルスキル標準」の公式ページをまとめたもので、法的な助言ではない。TRAIL は法律事務所ではない。
仕組み
EU AI法の第4条は、AI システムの提供者と導入者に、社員などの AI リテラシーを育てる措置を求めている。欧州委員会の Q&A は、第4条に沿った取り組みで少なくとも考えるべきこととして、次の4つを挙げている。
- 組織の中で AI の全体的な理解を確保する:AI とは何か、どう動くか、組織でどの AI を使っているか、その機会と危険は何か。
- 組織の役割を考える:自社で AI システムを開発しているのか、ほかの組織が作った AI システムを使っているだけなのか。
- 提供または導入する AI システムのリスクを考える:社員がその AI システムを扱うときに何を知る必要があるか、どんなリスクに気をつけるべきか。
- ここまでの分析をもとに取り組みを組み立てる:社員の技術的な知識、経験、教育、訓練の違いと、AI システムを使う場面、AI システムが使われる相手を考える。
Q&A はこの4つには法と倫理の面も含まれるとし、AI法の理解や倫理、ガバナンスの原則につなげることを勧めている。
EU AI法の前文20は AI リテラシーに含まれうるものとして、使うときにとるべき措置と、AI システムの出力の適切な読み取り方を挙げている。
日本では、経済産業省と IPA(情報処理推進機構)が「デジタルスキル標準(DSS)」を策定している。このうち「DXリテラシー標準(DSS-L)」は、すべてのビジネスパーソンが身につけるべきスキルの標準だ。DXの背景(Why)、使われるデータと技術(What)、データと技術の使い方(How)、マインド・スタンスの4つで構成されている。
表で見る最新の状況
上の年表は、AI の提供元が社員や技術者の研修を掲げた出来事について、TRAIL の DB にある3件を古い順に並べたものだ。確認日は2026年10月10日から10月20日。
Microsoft は2024年4月10日、日本への投資の発表の中で、3年間で300万人超に AI の研修をするとした。Anthropic は2026年3月12日に、導入を支援する企業向けに研修や認定資格を用意する Claude Partner Network を発表した。10月2日には技術者を育てる Claude Frontier Academy を発表し、最初の講座は数日間の対面研修と12週間の実務研修だとした。
TRAIL の年表にある3件は、どれも研修を用意する側の発表で、受けた人の理解の水準を示すものではない。自社の社員に何を教えるかは、使っている AI と業務に合わせて決める必要がある。
EU AI法の第4条とデジタルスキル標準の主な日付は次のとおりだ(2026年11月6日に確認)。
| 日付 | できごと |
|---|---|
| 2023年8月 | デジタルスキル標準 ver.1.1。DXリテラシー標準に生成AIに関する学習項目例とマインド・スタンスの補記を追加 |
| 2024年7月 | デジタルスキル標準 ver.1.2。DXを推進する人材について、生成AIに関する行動例と学習項目例を追加 |
| 2024年8月1日 | EU AI法が発効 |
| 2025年2月2日 | EU AI法の第4条(AI リテラシー)が適用 |
| 2025年11月19日 | 欧州委員会が Digital Omnibus on AI を提案。第4条の改正を含む |
| 2026年4月 | デジタルスキル標準 ver.2.0 を公表 |
| 2026年7月27日 | Digital Omnibus on AI(Regulation (EU) 2026/1744)が発効。第4条を改正 |
| 2026年8月2日 | 加盟国の市場監視当局による、第4条の監督と執行が始まる |
改正後の第4条でも、AI リテラシーは提供者と導入者の義務として残った。ただし、特定の水準や「十分な」水準は求めないと欧州委員会は説明している。
AIリテラシーと DXリテラシー、AIガバナンスの違い
AIリテラシーは一人ひとりの知識とスキル、AIガバナンスは組織の仕組みにあたる。DXリテラシー標準は日本の公的な学びの指針だ。
| AIリテラシー(EU AI法) | DXリテラシー標準(日本) | AIガバナンス | |
|---|---|---|---|
| 何か | AI を情報にもとづいて使い、機会とリスクに気づくためのスキル、知識、理解 | すべてのビジネスパーソンが身につけるべきスキルの標準 | 組織が AI のリスクを管理する方針、ルール、役割、手順 |
| 誰が定めたか | EU(Regulation (EU) 2024/1689 第3条56号、第4条) | 経済産業省と IPA | 各組織。NIST の AI RMF などを手がかりにできる |
| 対象 | 提供者と導入者の社員など、AI システムを扱う人 | 組織、年代、職種を問わない働き手 | 組織全体 |
| 守る義務 | 提供者と導入者に、育てる措置の義務 | 学びの指針として策定された | NIST は AI RMF を任意で使うものとしている |
社員の研修は、AIガバナンスの項目の1つにも挙がっている。NIST の AI RMF は、社員とパートナーがリスク管理の研修を受けることを Govern 2.2 として挙げている。
仕事でどう関係するか
社員が文章の作成や翻訳に生成AIを使うとき
欧州委員会の Q&A は、社員が ChatGPT で広告の文案を書いたり翻訳したりする会社も第4条の対象になるとしている。社員はハルシネーション(AI が事実と違う内容をもっともらしく出すこと)のような特有のリスクを知らされるべきだと答えている。たとえば、ハルシネーションを前提に、出力の事実や数字を元の資料で確かめる手順を教えることが考えられる。
次の文章の中から、数字、日付、固有名詞をすべて抜き出し、表にしてください。
元の資料で確かめる必要がある箇所に印をつけてください。入力してよい情報を教えるとき
AI推進法の第3条4項は、AI の不適切な使い方が個人情報の漏えいを助長するおそれに触れている。内閣府の一覧には、個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月)が載っている。どの情報をどのツールに入れてよいかは、社内のルールとして決めてから社員に伝える必要がある。
著作権の扱いを教えるとき
AI推進法の第3条4項は、著作権の侵害を助長するおそれにも触れている。内閣府の一覧には、文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月)が載っている。生成AIと著作権の扱いは、生成した画像や文章を社外に出す社員にかかわる。
研修の中身と記録を決めるとき
欧州委員会の Q&A は、研修の形式に決まった一つの型はなく、厳密な要件や必須の研修は課していないとしている。一方で、AI システムの使用説明書に頼るだけや、社員に読ませるだけでは、多くの場合は効果がないかもしれないとも書いている。修了証は必要なく、研修などの取り組みを社内で記録しておけばよいとしている。
注意点と限界
- このページは法的な助言にあたらない。TRAIL は法律事務所ではない。自社が EU AI法の対象になるかは、条文と欧州委員会の公式の資料で確かめる必要がある。
- 欧州委員会の Q&A は、第4条が社員の知識の水準を測る義務を含まないとしている。第4条1項は提供者や導入者に、個人の AI リテラシーを特定の水準まで保証することを求めていない。
- 第4条への違反には、加盟国の法律にもとづいて罰則などの措置がとられうる。欧州委員会は、制裁は個々の事案に応じた比例的なものになるとしている。
- デジタルスキル標準の本文は PDF で公開されている。このページは経済産業省と IPA の HTML のページで確かめられる範囲だけを書いた。生成AIについて DXリテラシー標準が挙げる学習項目例の中身は、このページでは扱っていない。
- デジタルスキル標準は可能な限り汎用的な表現にしてあり、各企業が自社の産業や事業に合わせて具体化する必要があると経済産業省は説明している。
よくある質問
AIリテラシーとは何か
AI の仕組みと、使うときの機会とリスクを理解し、AI を適切に使うための知識とスキルだ。EU AI法は第3条56号で、AI システムを情報にもとづいて使い、AI の機会とリスク、起こしうる害に気づけるようにするスキル、知識、理解と定義している。
会社に AI の研修は義務づけられているか
EU AI法の対象になる提供者と導入者には、第4条が社員などの AI リテラシーを育てる措置を求めている。ただし、欧州委員会は研修の形式を決めておらず、必須の研修も課していないとしている。日本の会社に AI の研修を義務づける法律は、このページの資料では確かめられなかった。
日本の会社にも EU AI法の第4条は関係するか
関係することがある。欧州委員会の Q&A は、AI システムが EU の市場に出される場合や EU で使われる場合、EU にいる人に影響する場合は、EU の外の組織にも第4条が当てはまるとしている。
研修の修了証や AI の責任者は必要か
欧州委員会の Q&A は、修了証は必要なく、研修などの記録を社内で持っておけばよいとしている。第4条のために、AI の責任者を置くといった特定の体制も求めていない。
技術者は研修を受けなくてもよいか
欧州委員会の Q&A は、AI の開発の学位や経験がある人は通常は AI リテラシーがあると考えてよいとする。ただし、使う AI ツールや本人の資格によるとしている。組織の AI システムのリスクや、法と倫理の面を知っているかは、別に確かめるよう求めている。
関連する用語
出典
- 公開
- 執筆
- TRAIL編集部(編集方針)
